機材

 ことしの6月くらいに液晶ペンタブレット(液タブ)を思い切って購入してしまいました。思えばパソコンでたどたどしくも一つ絵に色を塗ってみたのが昨年12月くらいのことだったので、まだ半年くらいしか経ってない、それに数枚しか色塗りをしていないうちにずいぶん見切り発車で買ってしまったような気もします。

 実際のところ、買ってから創作の幅はずいぶんと広まったような気がします。息抜き程度でもそれなりの数を塗ってきた気がします。7,8月の2ヶ月でそれまでの枚数よりずっと多くの絵を描くことができました。もちろんそれは「高い買い物をしたんだから」という、一種の強迫の裏返しであるとも言えるのですが、この経験を覚えていれば8万強の出費も決して無駄ではなかったと言えるでしょう。うーん、偉そうだなあ。

 このご時世になってもデジタルはアナログよりも楽だと言う意見が幅を利かせています。これもおかしな話で、思えば寺沢武一がはじめてデジタルで彩色をした時は当然デジタルのほうが遥かに困難だったでしょう。現在に於いては様々なツールの発達で随分デジタルでも楽になった作業が増えてきましたが、実際のところ楽になった作業の大半は絵の魅力に直接関わるところではないのだと思います。デジタルによって私達はずるができるのではなく、むしろその作業の手間を省くことで絵の本質と直接戦うことにより多くの時間を割くことができるようになったのでしょう。裏返して言えば、デジタルで絵を描くという環境が私たちにもたらしたものは、機材の不足にかこつけることのできない、より純粋な絵の技術の世界なのです。

 修学旅行のしおりか何かの表紙の絵を募集した際に、デジタルで描いた人がずるをしてると言われて落選してしまったそうです。一方でスマートフォンで描いた漫画が当選した漫画家は、「読者には何を使って描こうが関係ない」と早く作業のできるペンタブレットを使って現在は作業しています。無論使用した画材・技術というのを他の創作者が参考・手本にすることは大事なことですが、そもそもデジタルにおいても無料ツールから十万円台もするようなイラストソフトまで存在していますから、アナログ・デジタル問わず画材によって作品の優劣を判断することは無粋極まりないでしょう。

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